器官発生過程の定量と数理
日時
2017年7月28日(金)16:30〜18:00
*30分程度の質疑応答を含む
場所
理学部3号館108講義室
講師
森下 喜弘 博士(理化学研究所 生命システム研究センター)
概要
これまで発生生物学の分野では、分子生物学的アプローチを駆使し、器官形態形成に必須な遺伝子、あるいは形態異常を引き起こす原因遺伝子を明らかにすることに成功してきた。またより近年では、様々な計測技術の進展により、各遺伝子発現の時間的・空間的な依存性を定量的に議論することが可能となり、数理的アプローチとの融合を通じ、時空間パターニングに関するシステム的理解が深まってきた。
他方で、器官の発生・再生過程において観察される多細胞集団の立体構造が、どのように(自己組織的かつロバストに)形作られるのか、という問いに関してはほとんど明らかになっていない。この問いに答えるためには、観測される様々な分子・細胞動態と組織レベルでの変形場、力学場の関係性を明らかにする必要がある。
本講演では、器官形態形成原理の解明を目指して我々が行っている細胞・組織レベルにおける動態解析(計測、データ解析、数理モデリング)を四肢や前脳発生等の具体的なデータを示しながら紹介するとともに、この分野に関連する理論を紹介する。
共催
開催報告
スタディーグループ2「イメージングと数理の融合:動きや形の定量とモデリング」では、理化学研究所生命システム研究センターの森下喜弘氏を招き、セミナーを行いました。
本セミナーでは、生体器官の形態形成過程における細胞・組織レベルの動態解析(計測・データ解析・数理モデリング)について、ニワトリ神経管の実験データを具体的に示しながら、実験と理論の融合研究のお話しをしていただきました。主に3つのトピックから成り立っており、生体組織の1.変形、2.力学、3.情報をキーワードとし、どの話題においても多様体を基礎とする理論について触れられました。また、どのような理論構築が可能か、どのように実験データを利用し理論研究と結びつけるのかといったテーマについてもお話しいただきました。
1つ目のトピックは生体組織内に埋め込んだランドマークの情報から変形写像を推定するデータ解析に関するお話しで、最新の研究成果を基にお話しいただきました(2017, Morishita, et al., Nat Comm.)。2つ目のトピックでは、神経管の形態変化を超弾性体でモデル化し、成長を含む力学シミュレーションで形態形成を再現する最新の試みについてお話しいただきました。3つ目のトピックでは、細胞に位置情報を与える情報源の最適な配置に関する問題に対して、情報論的視点から研究に取り組まれている様子をお話しいただきました。
突然のスコールにもかかわらず30名近くの参加者が集まり、研究のモチベーションや理論構築の前提に関する活発な質疑がなされました。多様な背景を持つ参加者(生命科学系:非生命科学系=3:2)の活発な議論が続き、予定の時間を越すほどの盛況となりました。(文責 平島剛志)